PLATONIC  太陽の少年 ―― 愛について ③

第四歌


 ここには、地上の者だけでなく、冥界の者たちもまた来ている……。

 ああ、冥界の者たちよ、

あなた方も、歌の中の、愛という言葉にひかれて、

かがり火の中、姿をあらわしたのだろう。

 私には、あなた方の思いが見える。

 私には、愛を求めながらも満たされず、

渇きに死んでいったあなた方の恨みが見える。

 ある者は裏切られ、またある者はののしられ、

そしてその恨みが強く、

あまりにも強く、

天上に帰りつかなかったのであろう。

 私はあなた方を、

死してなお満たされぬあなた方を、あわれもう。

 しかし、しかし、冥界の者たち、

あなた方もまた、絶望してはならない。

 私の歌は、あなた方のためにもまた歌われたものであるのだから。

 冥界の者たち、

冥界の者たち、

あなた方は知れ、

天上においては、あなた方の愛もまた成就しているということを。

 あなた方は、冥界で不当に苦しめられているように思っているかもしれない。

 あるいは、何らかの罰を受けているように感じているかもしれない。

 しかし、しかし、真実はそうではないのだ。

 冥界もまた、鏡であるのだ。

 ただ、あなた方の心が展開しているだけにすぎないのだ。

 ただ、満たされぬ恨みが、愛を信じられぬ寂しい心が、

鏡に映っているにすぎないのだ。

 それゆえに冥界の者たち、

あなた方は愛を、

天上における、根源なる世界における愛の成就を信じよ!

すでに魂の満たされていることを信じよ!

その時こそ、あなた方も根源なる光の中にいるから……。



エピローグ


 王子は歌を終え、楽士たちも楽器を置いた。

 そしてはじめて、風が吹いた。

 歌の間は、風も星々さえも静まっていたからである。

 はるかな昔、人々はそうして渇きをいやした。

 水によってではなく、歌によって。言葉によって。

 美しきミューズたちの伝えた……。

 夜は終わった。

 人々は皆帰り、睦み合うようにして眠った。

 ただ、王子ひとりだけが醒めていた。

 夏の夜、満天の星々の下、何かを待つように。



               『太陽の少年』  おわり

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